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    原発問題 -The Truth is Out There-

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    低線量放射線リスクと内部被曝を加えた総合的な被爆の考え方を! 

    最近の低線量被曝の影響に関する話題

     各国での放射線防護の理念や安全規制に大きな影響力をもつ国際放射線防護委員会(ICRP)の基本勧告が、今年5月に出る予定になっていたが、進行状況をみていると、新勧告が発行されるのは来年になりそうだ。
     本誌342号でもお伝えしたが、今回の改訂は、これまでの改定作業とは大きく異なり、作業の区切りごとに委員会における議論と改訂の内容が公開され、委員会のホームページ( http://www.icrp.org/news.asp )などで勧告案の草稿に対するコメントを受けつけながら作業が進められている。

     新勧告案は、自然放射線レベルを前面に出し、新しい体系にすることが強調されている。自然放射線に相当する領域を「ノーマル・バンド」として、当初、公衆と作業者を区別せず、個人の年間実効線量に関する線量バンドが提案されていたが、これまでの防護体系とあまりにも違いすぎると、各国から猛烈な反対があった。
     ICRPは議論を経て、「線量限度」、「集団線量」、「ALARA(as low as reasonably achievable、合理的に達成できる限り低く)の原則」などのコンセプトは維持することを決めたとしているが、その中身はかなり変化している。

    数mSv以下の被曝は切り捨てる

     ICRPは、被曝線量に応じてがんや白血病が発生する、しきい値のない直線反応関係(LNT)仮説の概念を変えることなく、その適用範囲を限定しようという意図を打ち出した。「数ミリシーベルト以下の放射線はLNTの対象からはずす」というものだ。「障害の発生におけるしきい値の有無にかかわらず、検出できないようなレベルのリスクは、問題とはならない」、また「LNT仮説は放射線防護・放射線管理のための仮説であり、これに基づいて現実に起こる障害の算定を行なうべきではない」との記述が、随所に繰り返されている。

     自然放射線レベルの線量は、取るに足らないものとして切り捨ててしまおうとする姿勢が鮮明に打ち出されている。
     また、組織加重係数が新しいリスクデータに基づき変更され、生殖腺の係数がこれまでの4分の1に切り下げられたことも問題だ。

     考慮されなくてはならないことは、ICRPのリスク評価の基本となっている広島・長崎の被爆者の追跡調査は、原爆炸裂という過酷な状況下で生き残った"じょうぶな"人々のデータであることだ。幼児をはじめ身体的弱者とみなされる人々は熱風や爆風、急性放射線障害などで直後に死亡していることが多い。また、女性の被爆者の場合、妊娠に至らず死亡したり、受胎できなかった可能性が強い。若年者に対するリスクや遺伝的障害については信頼できるデータは少ない。これらのデータに基づく線量モデルやリスク評価には不確かさがつきまとう。

     これまで低線量域については、LNT仮説を使って、低線量での影響を高い線量域での影響から単に被曝量に比例して考えるとされてきた。だが実際には、線量効果係数なるものを導入して、低線量の影響を高線量の半分に値切っている。しかし、原爆被爆者のデータは、むしろ低線量になると単位線量当たりの影響が大きくなることを示している。

     この不確かな線量モデルに基づくリスク評価により、原発や再処理工場、原発労働者たちに起きている健康被害、チェルノブイリ事故以降のがんや小児白血病発生の増加にたいして、「被曝線量が低すぎる」と、放射線被曝との因果関係を否定されてきた。

    欧州での活発な議論

     ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)は、これまでのICRPらの不確かなリスク評価を根底から見直し、新しいリスクモデルを開発するという難題に取り組み、『ECRR2003年勧告』を出した(本誌360号参照)。

     内部被曝の影響評価や、明らかになってきたゲノム不安定性※やバイスタンダ―効果※などの影響も考慮している。これらの放射線生物影響については、発生のメカニズムも不明な段階なので、定量的評価に結びつけるのはかなり無理があると思うが、画期的で重要な提案と評価する。

     英国保健省と環境・食糧・農村問題省から資金援助を受け、内部放射線被曝リスク調査委員会(CERRIE)は、昨年10月、『CERRIEマジョリティ報告』を発行した(これに関するプレスリリースの翻訳を http://cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=82 に掲載している)。

     報告書は、現在の内部被曝リスクの評価方法は、不確実性が大きいので、そのことを十分考慮して、慎重に政策と規制の決定を行なうべきである。内部被曝のリスクに関する最新情報を考慮して、もっと断固とした行動をとる必要がある。政策立案者や監督機関は予防措置を考慮しなくてはならない、と提言している。

     委員会は、2001年に前環境大臣M.ミーチャによって設立された。原発周辺とチェルノブイリ事故後のがん発生が増加していること、内部被曝リスクへの危惧から出発したもので、目的は、これまでほとんど外部被曝にだけ基づいていたリスクモデルを、内部被曝に適用することが妥当かどうかを決めることだった。大学や英国放射線防護局(NRPB)などの研究者、原子力産業、環境団体の代表、ECRRの中心的なメンバーであるC.バスビー、R.ブラマルら12人で構成されている。

     バスビーとブラマルは、意見の相違がある部分については、その理由を説明し報告書に反映させることを主張したが、受け入れられず、彼らの見解は排除された。このため、報告書に同意しなかったが、彼らの『CERRIEマイノリティ報告2004』は、マジョリティ報告に先立ち発行されている。また、ブラマルによる委員会での議論の内容を示した“CERRIEの誤り”が発表されている(その翻訳をhttp://
    cnic.jp/modules/news/article.php?storyid=107に掲載した)。

     これらの動きの背景には、セラフィールド再処理施設がもたらした深刻な汚染問題がある。1983年、英国ヨークシャーテレビが製作したドキュメンタリー『ウィンズケール核の洗濯工場』が放映され、センセーションを巻き起こした。再処理工場に隣接するシースケール村の子どもたちの間に、白血病が英国平均の10倍も多発していることを告発したものである。

     放映された翌日、当時のサッチャー首相は、番組の内容を検討する諮問委員会(ブラック委員会)を発足させた。さらに、環境放射線の医学的側面に関する委員会(COMARE)が報告書をまとめている。どの報告書も因果関係を否定したものだったが、国民的関心が高まり、政府も科学者も緊張感をもって、取り組まざるを得ない状況であることは確かだ。

    日本でも開かれた議論が必要

     日本では原子力安全委員会が組織した放射線障害防止基本専門部会の低線量放射線影響分科会(主査:丹羽太貫京都大学放射線生物研究センター教授)が、2001年9月にスタートし、2004年3月、「低線量放射線リスクの科学的基盤」をまとめた。しかし、この報告書は、新しく組織再編された放射線防護専門部会にあげられたままで、まだ正式な報告書にもなっていない。早急に正式な発表を望みたい。

     この分科会では、ICRP90年勧告では扱っていない放射線リスクの数量化に直接関係する新しい生物学的現象に着目して、防護基準や安全規制に与える影響などについて、リスク評価の観点から現状と課題について検討した。

     この分科会を傍聴していて感じたのは、かなり率直な意見交換と活発な議論がされた貴重な専門家会議だったということだ。「これまで原子力開発側の要望に即してきてしまっているが、ほんとうに中立的なBEIR(電離放射線の生物学的影響に関する米国科学アカデミー委員会)またはNRPBのような機関が日本にも必要だ」などの発言もあった(本誌340号参照)。分科会は各分野でのそうそうたる専門家の会議であったが、英国のCERRIEのような異なった立場のメンバー構成での開かれた議論の場も必要だ。

    (渡辺美紀子・スタッフ)

    ■特定非営利活動法人 原子力資料情報室(CNIC)
    Citizens' Nuclear Information Center

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