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    原発問題 -The Truth is Out There-

      : 

    東電福島原発事故の真実 放射能汚染の真実 食物汚染の真実 正しい情報を求めて

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    岩上安身のIWJ特報 第98号「『8月21日の謎』に肉薄する 五輪、汚染水、シリア、そしてTPP」 

    第98号
    ───────────────────────────────────
    岩上安身のIWJ特報!
    「8月21日の謎」に肉薄する 五輪、汚染水、シリア、そしてTPP
    ~嘘のアスファルトでぬかるみのような真実が舗装される
    ───────────────────────────────────
    (IWJより転載許可済み)


    ◆2020年オリンピック、東京での開催決定。IOC総会で安倍総理が世界に向けて発信した嘘◆

    日本時間8日の明け方、2020年夏季オリンピックの開催地が、東京に決定しました。東京での開催は、1964年以来2度目。日本でのオリンピック開催は、1972年の札幌、1998年の長野の冬季五輪と合わせ、4度目の開催となります。

    すべての五輪を知る世代の一人として、そして無類のスポーツ好きの一人として、手放しで二度目の東京五輪開催を喜びたいと思っています。本来であれば。

    ですが、本当に残念なことですが、その招致のクライマックスで、喜びや期待に冷水を浴びせられ、今、ひどく憂鬱な気持ちにさせられています。

    IOC(国際オリンピック委員会)総会が行われたブエノスアイレスには、東京都の猪瀬直樹知事に加え、サンクトペテルブルクでのG20を終えたばかりの安倍総理も駆けつけ、プレゼンテーションを行いました。

    そこで、安倍総理の口から発せられたのは、次のような驚くべき発言でした。

    “The situation is under control .”(状況はコントロールされている)


    「状況」とは、福島第一原発の「状況」を指します。安倍総理は、国際社会に向けて、福島第一原発をめぐる状況は「コントロール」されている、と宣言したのです。

    さらに、ノルウェーのIOC委員から、福島第一原発の状況について聞かれた安倍総理は、次のように述べました。

    「まず、結論から申し上げますと、まったく問題ありません。新聞のヘッドラインではなくて、事実を見ていただきたいと思います。

    汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の、0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされています。

    福島の近海で、私たちはモニタリングを行っています。その結果、数値は最大でもWHOの飲料水質ガイドラインの500分の1であります。これが事実です。

    そして、わが国の食品や水の安全基準は、世界でも最も厳しい基準であります。食品や水からの被曝量は、日本どの地域においても、100分の1であります。つまり、健康問題については、今までも、現在も、そして将来も、まったく問題ないということをお約束いたします。

    さらに、完全に問題のないものにするために、抜本解決に向けたプログラムを、私が責任をもって決定し、すでに着手をしております。実行していく、それをお約束いたします」

    動画URL:http://bit.ly/15a2YWp

    私は真夜中に、地球の裏側のブエノスアイレスで、自国の総理が国際社会に向けて、真っ赤な嘘を公言していることを知り、愕然としました。

    ◆汚染水は港湾内にブロックされていない◆

    安倍総理は、「事実」を見ていただきたいと大見得を切りながら、「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の、0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」、などと述べました。しかし、これは「事実」ではありません。

    8月19日、福島第一原発の貯水タンクから、毎日300トンもの高濃度汚染水が漏洩したことが発覚しました。この高濃度汚染水は、1リットルあたり8000万ベクレルにも達し、合計で、これまで24兆ベクレルが漏洩したことになります。原子力規制委員会は、この事故を国際原子力事象評価尺度(INES)の「レベル3(重大な異常事象)」に該当すると発表しました。

    9月5日、この汚染水が、地下水に到達していたことが明らかとなりました。汚染水の漏洩が発覚した貯水タンクの周辺に掘った観測用の井戸から、ストロンチウムが1リットルあたり650ベクレルという高い値で検出されたのです。

    さらに東電は、2011年4月4日から10日にかけて、港湾内に1万393トンの放射能汚染水を意図的に放出しました。含まれる放射能の量は、ヨウ素131やセシウム137など計1500億ベクレルにもおよびます。

    そして東電は、9月1日、港湾内の海水の44%が港湾外の海水と交換されていることを明らかにしました。これは、一日あたりの数字です。すなわち、港湾内の汚染水は、一日で半分の量が外洋の海水と交換されているのであり、汚染水が、「港湾内で完全にブロックされている」という安倍総理のスピーチは、「完全な虚構」に他なりません。東電自ら認めている通り、そして常識で考えれば誰でも理解できる通り、港湾内の汚染水は海洋へと拡がっているのです。


    ◆日本の食品安全基準は、世界で一番厳しくはない◆

    安倍総理がついた嘘の第2点は、「食品の安全基準は世界で一番厳しい」という、誰でも見破れる嘘です。

    政府は2012年4月1日、食品中の放射性物質に関して、新たな基準値を設定しました。食品からの被曝線量の上限を年間1ミリシーベルとし、野菜や米などの一般食品は1キロあたり100ベクレル、牛乳や乳児用の食品は1キロあたり50ベクレル、飲料水は1キロあたり10ベクレルとしました。

    ※厚生労働省HP 「食品中の放射性物質の新たな基準値」【URL】http://bit.ly/GYlx4P

    しかし、チェルノブイリ原発事故を経験したウクライナでは、パンは1キロあたり20ベクレル、野菜は1キロあたり40ベクレル、飲料水は1キロあたり2ベクレルと、日本よりも厳しい基準値を導入しています。日本の食品の安全基準が、世界で一番厳しいなどというのはとんでもないデタラメです。

    ◆食品や水からの被曝量は、基準値の100分の1ではない◆

    安倍総理がついた嘘の第3点は、「食品や水からの被曝量は、日本のどの地域においても、100分の1である」という嘘です。

    2月28日、東電は港湾内で採取したアイナメから、1キロあたり51万ベクレルの放射性セシウムを検出したと明らかにしました。これは国の食品基準値の5100倍と、極めて高い数字です。安倍総理は「日本のどこでもこの基準の100分の1」などと大ボラを吹きましたが、100分の1どころか、5100倍ものサンプルが、現に発見されているのです。


    ・福島第一原発港湾の図(図表URL:http://bit.ly/1ah2ZZq

    51万ベクレルを検出したアイナメは、上図のFの位置で捕獲されています。まさに、港湾内と港湾外の境界となる位置です。汚染水が港湾外に広がっていく境界線上で検出された、象徴的なサンプルだといえるでしょう。

    ◆健康被害はすでに出ている◆

    安倍総理がついた嘘の第4点は、「健康問題については、今までも、現在も、そして将来も、まったく問題ない」と述べたことです。これほど明々白々な嘘はありません。

    福島第一原発事故の影響を調べている福島県の県民健康管理調査検討委員会は、8月20日、甲状腺がんと診断が確定された子供の人数が、18人にのぼると発表しました。安倍総理は、福島で広がっている健康被害と被曝とは関係がないと、「今までも、現在も、将来も」言い張るつもりなのでしょうか。


    ※甲状腺がん確定18人に 福島の健康調査(8月20日、msn産経【URL】http://on-msn.com/1d1Dkrc

    このような発言は、チェルノブイリ事故が起こったソ連でも、ソ連崩壊以後のウクライナやベラルーシでも、いかなる指導者も口にしなかったことです。プロパガンダばかりで少しも「プラウダ(真実)」を見出だせなかったあのソ連以下の国なのだ、と思い知らされて、恥入るばかりです。

    安倍総理が、このような発言を国際社会に向けて公然としたこと、そしてIOCが東京をオリンピックの開催地として選んだことは、結果として、福島第一原発事故の影響を過小評価し、健康被害を隠蔽するための口実として利用されることになりかねません。


    安倍総理は、「状況はコントロールされている」と、世界に向けて高らかに宣言しました。しかし、福島第一原発の状況は、「コントロール」とはほど遠い状況にあります。

    ◆行き場のない汚染水とタンク◆

    福島第一原発1号機から4号機の原子炉建屋とタービン建屋の地下には、毎日400トンの地下水が流れこんでいると推定されています。この地下水もまた当然汚染しているため、地上のタンクで保管する必要があります。しかし、地上のタンクが漏洩していたとなると、この地下水は行き場をなくしてしまいます。早急に新しいタンクを用意しなくてはなりません。

    しかし、汚染水を入れ替えるための溶接タンクを増設するスペースがどこにあるのでしょうか? 森を切り開いてタンクを林立させた敷地内は、すでにいっぱいです。増設のためには、周辺の土地を買い取るか、接収するしかなさそうですが、立地の自治体や周辺の住民、地権者とそんな交渉に入ったなどという話は、まったく聞こえてきません。

    仮に新たに溶接型タンクを設置するスペースが確保できたとしましょう。そして、既存のボルト締めタンク300基以上から、溶接型のタンクに無事、汚染水を移すことができたとしましょう。

    その後、空となったボルト締め型タンクはどうするのでしょうか。これらは放射性廃棄物となります。スクラップにして、そこら辺に投棄して許される代物ではありません。300基ものタンクの適正な保管場所を確保しなくてはなりませんが、そんなメドは立っていませんし、そのための場所探しに東電が必死になっているという気配もありません。

    日本政府は3日、汚染水対策として、470億円の国費を投入するという基本方針を発表しました。地下水の建屋への侵入を防ぐ凍土遮水壁の建設に320億円、浄化設備の改良に150億円をあてるとしています。急を要するはずのタンクの増設費用は計上されていません。国も、汚染地下水の汲み上げと保管に本気になっているとはいえません。

    ◆汚染水の放出には半世紀以上かかる◆

    不可能なことは、まだあります。

    政府は、150億円をあてて、多核種除去装置(ALPS)を改良するといいます。しかし、多核種除去装置を改良したとしても、トリチウムという放射性物質を除去できないことに変わりはありません。

    東電の資料には、福島第一原発の汚染水に含まれるトリチウムの量は、1リットルあたり500万ベクレルであると記載されています。一方、同じ資料には、保安規定で示されているトリチウムの年間放出量は、22兆ベクレルとなっています。つまり、多核種除去装置を用いた場合でも、放出することができる汚染水は、年間440万リットル(22兆÷500万=440万)ということになります。


    ※「福島第一原子力発電所でのトリチウムについて」(東京電力HP 【URL】http://bit.ly/ZNDI6X

    440万リットルを換算すると、4400トンになります。福島第一原発の構内には、24万5000トンの汚染水が滞留していると言われているので、すべての汚染水を保安規定を守って放出するとなると、55年以上かかることになります(24万5000÷4400=55.68…)。

    保安規定を守ると、汚染水の放出には、なんと半世紀以上もかかるのです。この間の汚染水の取り扱いについて、東電はなんら具体策を提示できていません。

    以上の経緯を踏まえると、政府と東電は解決策として、一つのことを考えているとしか思えません。それは、汚染水の海洋放出です。

    原子力規制委員会の田中俊一委員長は、9月2日、外国特派員協会で記者会見し、「必要があれば、放射性濃度が基準値以下のものは海に出すことも検討しなければならないかもしれない」と述べました。保安規定を守るのならば、半世紀以上かかるのですが、それほど大量の汚染水を長い年月かけて放出し続けてゆく、と宣言したに等しい発言です。

    ※2013/09/02 外国特派員協会 田中俊一 原子力規制委員会委員長 記者会見
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/99510

    ◆世界から向けられる厳しい視線◆

    このような、政府と東電の対応に対し、世界は厳しい視線を向けています。

    9月5日、ニューヨーク・タイムズは、1面に福島第一原発の写真つき記事を掲載し、日本政府と東電の汚染水対策を厳しく批判しました。2020年五輪開催を決定するIOC総会当日の朝刊です。記事は、日本政府の対策は危険かつ技術的に複雑で費用がかかると指摘し、汚染水への対応について、日本政府と東京電力の危機管理能力に疑問を投げかけています。

    ※Errors Cast Doubt on Japan’s Cleanup of Nuclear Accident Site (ニューヨーク・タイムズ 9月5日【URL】http://nyti.ms/161IbEe

    ニューヨーク・タイムズの批判はほんの一例に過ぎません。この夏の世界中のメディアのトップニュースは、シリアと福島第一原発の汚染水問題でした。

    科学雑誌「Nature」は、9月3日に福島第一原発に関する論説を掲載しています。

    ※Nucler error─Japan should bring in international help to study and mitigate the Fukushima crisis (【URL】http://bit.ly/1fxjYHi

    記事は、「福島第一原発の事故は東京電力の手には負えない」としたうえで、「政府が先頭に立って対応するということを決めた時期が遅すぎる」と日本政府を批判。さらに、報道の遅れや監視体制の甘さをあげ、海外の専門家に助けを求めるべきだと述べています。

    しかし、そんな批判を日本政府は、正面から真剣に受け止めたとは思えません。

    日本政府が、とってつけたように国費投入を決めた真の理由は、東京へのオリンピック招致決定が目前に迫っていたこと以外に考えられません。

    安倍総理は9月4日、ブエノスアイレスで開かれる国際オリンピック総会でプレゼンテーションを行う考えを示し、「政府が前面に出て完全に解決していく。抜本的な措置を断固たる決意で講じており、7年後の20年には全く問題ないとよく説明したい」と語りました。

    ※汚染水漏れ「五輪時には解決」=安倍首相(時事通信、9月4日【URL】http://bit.ly/15rDUXu

    安倍総理がここで述べた「解決」とは、いったい何を指すのか不明です。福島第一原発事故の収束作業は、まだ始まったばかりです。

    今年の11月から、4号機の原子炉建屋から1533本もの使用済み燃料を取り出し、隣の共用プール建屋へ移動する作業が、ようやく始まるところです。使用済み燃料の取り出しは、4号機の後、1号機、2号機、3号機と続きますが、東電はその工程表をいまだに示せていません。

    安倍総理が述べた「解決」が、汚染水漏洩の問題だけを指すのだとしても、それは、前述の通りまったく見通しの立っていない話です。東電も政府も、日々増え続ける汚染水を貯める溶接型タンクの増設計画も示せず、放射性廃棄物となるボルト締め型タンクの保管場所のあてもありません。

    それに加えて、使用済み核燃料の取り出し作業が、万々が一でも失敗し、燃料棒が何かにぶつかったり、落としたりして破損した場合、大量の放射性物質が飛散する可能性もありえます。そうなると、東京での五輪の開催どころではない。東京は、人の住めない街になってしまうかもしれないのです。

    ◆根拠の薄い証拠でシリア攻撃に邁進する米国◆

    緊迫するシリア情勢をめぐり、私は、「IWJウィークリー」15号の「ニュースのトリセツ」末尾に、次のような一文を書きつけていました。

    「嵐の直撃は、もしかしたら回避できるかもしれない。暗雲の隙間から、わずかに光が見えてきた。8月30日の朝現在の状況は、そんなところではないか」

    これは、8月30日の朝、つまり、英国議会が反対多数で軍事攻撃を容認する動議を否決し、キャメロン首相がシリアへの武力行使を断念すると発表したことをうけてのものです。

    その後、今日までの経過を簡単に振り返っておきたいと思います。

    30日、米国のケリー国務長官が会見を開き、化学兵器がアサド政権により使用されたとする「確度の高い情報」があると発表、米国が独自のルートで入手したという証拠を記した報告書を公表しました。

    ※Government Assessment of the Syrian Government`s Use of Chemical Weapons on August 21、2013
    (ホワイトハウスHP【URL】http://1.usa.gov/1coiGi0

    この報告書では「少なくとも426人の子どもを含む1429人がシリア政府の化学兵器で殺害された」と、初めて死者数を特定。その根拠として、シリア政府軍がダマスカス郊外にロケット弾攻撃を加えたことを衛星による探知で確認したこと、その際、化学兵器が使用されたことを裏づける政府高官の通話内容を傍受したことの2点をあげています。

    ケリー国務長官は、この報告書を根拠に、「数日内に軍事行動の可能性がある」と述べました。英国が軍事介入を断念したなか、米国とフランスの2ヶ国を中核として多国籍軍を編成し、戦争に突入か、と世界中に緊張が走りました。

    ※米政権、シリア政府の化学兵器使用の概略を提示(ウォール・ストリート・ジャーナル 8月31日【URL】http://on.wsj.com/1479Sx8

    しかし翌31日、オバマ大統領が声明を発表。イギリス同様、軍事行動の事前承認を米議会に求める考えを明らかにしました。米下院は8日まで休会中であるため、米国によるシリアへの軍事介入は、最短で9日以降になることがこの段階で確定したわけです。オバマ大統領の声明は、結果として、8月21日の事件発生以来、武力介入へ向けて急発進していた米国政府の前傾姿勢に急ブレーキをかけるものとなりました。

    ・オバマ大統領:シリア攻撃、9日以降…「議会承認得て」(毎日新聞、9月1日【URL】http://bit.ly/14auDYH

    ◆”Assesment”が意味するものとは◆

    オバマ大統領が軍事介入に踏み切れなかった理由として、英国との足並みが揃わなかったこと、市民による抗議デモが全米各地行われるなど、世論の支持が得られていないことがあげられます。そしてもう一点、これが最も重要なことですが、8月30日に発表された報告書を読めば明らかな通り、化学兵器の使用を命じたのがアサド政権であるという直接的な証拠を米国政府自身が持っていない「弱み」があげられます。

    私が9月6日に緊急インタビューを行った、『シリア~アサド政権の40年史』(平凡社新書、2012.06.15)の著者・国枝昌樹元シリア大使は、この報告書について次のように述べました。

    「この報告書を繰り返し読みましたが、アメリカ情報当局者のため息、悩みがぶりとてもよく伝わってくるものでした。日本の報道機関は、どこもこの点に触れていません。それは、この報告書が、”Assesment”つまり『評価』と名づけられている点です。これは、情報当局者に特有のジャーゴンなんですね。

    米国はいまだに、アサド政権がやったと、断定しているのではないし、断定するだけの直接の証拠を持っていません。状況証拠を積み重ねたうえで、アサド政権が化学兵器を使ったのではないかと『評価』している、ということなのです」

    ・シリア情勢を解説する国枝昌樹氏。インタビューは3時間45分にも及んだ──9月6日、IWJ 事務所(写真URL:http://bit.ly/13v2CbQ

    米国政府が傍受したとされる化学兵器の使用をめぐるシリア政府当局者の通話の盗聴記録に関しても、国枝氏は、現場で得た証言として、次のように語りました。

    「シリア大使として仕事をするなかで、シリア政府の高官や軍の幹部ともつきあいができます。彼らは『私たちの会話は、米国やイスラエルに四六時中盗聴されていると知っている』と言っていました。『だから、通信機器を使うときは、盗聴を前提にして、話題を選定しているのだ』と。だから、今回のような重要な内容を、米国が通話記録の傍受により知り得たというのは、非常に不自然であると思います」

    国枝元大使の証言は、ひとつひとつ非常に説得力があります。アサド政権が化学兵器を使用したとする米国政府の報告書は、直接証拠のない、説得力に欠けるものだと言わざるをえません。そして、”Assesment”という表現からも分かるように、当の米国自身が、断定することに対して逡巡しているのです。

    オバマ大統領は、この逡巡を乗り越えるための方法として、先に述べた通り、議会による承認という手続きを経ることを選んだものと考えられます。アサド政権の仕業と断定する根拠はないにもかかわらず、それでも武力介入を行うという決断を正当化するためだけに、「民主主義」の形式的な手続きに従って、議会承認という迂回を選んだのでしょう。

    イラク戦争は終わったあとになって、大量破壊兵器はなかった、という事実が明らかになりましたが、シリアへの武力介入も似たような展開をたどり、アサド政権の「無実」が証明される日が来ないとも限りません。そんな時の保険のために、議会を「連帯保証人」にしておこうということだと思われます。

    米上院外交委員会は9月5日、10対7の賛成多数で、オバマ政権による最大90日間のシリアへの攻撃を認める決議を行いました。

    ※米上院外交委、シリア軍事攻撃の決議案を承認(ウォール・ストリート・ジャーナル、9月5日【URL】http://on.wsj.com/15EOauB

    9月9日に再開される米下院がはたしてどのような判断をするのか。それは、まだ分かりません。しかし、オバマ大統領は、9月10日にも、米国民に向けて演説を行うのではないか、と見られています。

    ※オバマ大統領 10日に国民へ演説へ(NHK 9月7日【URL】http://bit.ly/1dZodzT

    ◆理のない米国による武力介入◆

    米国が武力介入をするのは当然、と言わんばかりの勢いなので、日本のメディアではほとんど議論の俎上にのぼりませんが、これは「自衛」のための戦争ではありません。米国はシリアのアサド政権から攻撃を受けているわけではありませんから。

    9.11後のアフガン侵攻、2003年のイラク戦争は、こじつけめいてはいましたが、米国はテロ攻撃を受けた被害国であり、そのテロ組織とつながりのある政権を倒すのは自衛のための戦争だという理屈が一応は掲げられました。しかし、今回、米国の宿敵ともいえるアルカイダは、アサド政権を攻撃する側に立ち、米国の友好国である湾岸のアラブ諸国から手厚く支援されています。アルカイダを支援するテロ支援国家は誰なのか、今回は誰も彼もがこの問いについてはスルーを決め込んでいます。

    「自衛のためでもなく、国連安保理の承認もない武力攻撃は、明白に侵略戦争である」。これは、ロシアのプーチン大統領の9月4日の言葉です。

    ※プーチン大統領、シリア化学兵器の「確証必要」インタビュー(AFP、9月4日【URL】http://bit.ly/1fyAMOe

    プーチン大統領の言葉は、まったくもって理にかなっており、現時点で米国が武力介入することには理がありません。

    プーチン大統領といい、ラブロフ外相といい、ロシア首脳の主張が、これほど真っ当に聞こえたことはかつてありません。

    ◆8月21日の事件は予定されていたのではないか◆

    それでもなお、米国が強引に押し切り、仮に米軍を中心とする多国籍軍によりシリアへの軍事介入が行われるとしたら、それはどのようなものになるか。私は、前号の「ニュースのトリセツ」で、次のように指摘しました。

    「サリンやVXガス、マスタードガスといった化学兵器は、核兵器関連施設などと違い、製造にも、保管にも、大規模かつ固定的な施設を必要としない。95年に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教の例を見ればわかる通り、小規模な施設で製造が可能で、小分けにして国中に分散して保管することができる。したがって、製造施設や保管施設をすべて特定し、ピンポイント爆撃で完全に破壊するというのは不可能に近い」

    「もし仮に空爆して保管施設などに命中したら、化学兵器のガスがあたり一帯に飛散することになる。そうなると、民間人の被害も避けられないだろう。罪のない一般市民の被害を多数出した場合、米国を筆頭とする多国籍軍の武力介入の正当性は雲散霧消し、世界から非難を浴びることになるのは避けられない」

    「事件直後に『武力で対応すべき』と主張したフランスのファビウス外相は、そう語る一方で、『しかし、地上軍は派遣しない』とも述べた。これは、本当にシリア政府軍が化学兵器を大量に保有していたら、空爆ですべてを破壊できないため、地上軍を派兵した時に使われる可能性があり、自軍の将兵が被害を受けるのを恐れての発言である。地上軍を派兵できなければ、国土全域を制圧することはできない。それでは、真の勝利はおぼつかない」

    「裏返せば、イラク戦争の時のように、空爆が行われ、地上軍が派兵されて戦闘が行われた場合には、逆説的な話だが、シリア政府軍は化学兵器をほとんど保有していないか、保有していても使う意志がないと欧米諸国が確信したときである、ということになる。あるいは、毒ガスが飛び散って、シリアの民間人に被害が出ても意に介さない、自軍の将兵の犠牲もいとわない、という冷酷な決断が下せる場合であるが、これは現実には考えにくい」

    つまり、アメリカとフランスが軍事介入の根拠とする「アサド政権が化学兵器を所有している」という主張と、「シリアの国土全域を制圧して真の勝利を目指す」という作戦計画は、論理的には両立しないということです。

    私が、こうした疑問を口にしたところ、国枝元大使は、「シリア国内で起きてきた数々の事件は、すべてが8月21日に収斂していくように見える」と述べました。どういうことか、国枝元大使の分析をまとめると、以下のようになります。

    7月5日、シリア北西部のラタキアというシリア政府軍の軍港で爆発が起こりました。これは、ロシアからラタキアへ新鋭の地対艦ミサイルが運び込まれようとしたものを、安全保障上の理由から、イスラエル軍が爆撃したものでした。

    アメリカは、地中海にミサイル駆逐艦を4隻配備しています。ラタキアに運びこまれた地対艦ミサイルが失われたことで、アメリカの駆逐艦は、地中海東部から、何の障害もなく、シリア国内へミサイルを撃ち込めるようになりました。

    ・シリア国内の地図(写真URL:http://bit.ly/1esDirC

    シリア国内でアサド政権側と戦っている反体制派は、政権側からの脱走兵で構成されている「自由シリア軍」や、アルカイダ系の「アル=ヌスラ戦線」など諸勢力が入り混じり、玉石混交の状態です。この「自由シリア軍」は、ヨルダンに拠点を置いており、そこで、「自由シリア軍」に対し、武器を渡し、訓練を施し、兵站支援を行っているのが、トルコ、カタールとともに「シリアの友」などと呼ばれ、反アサド政権の姿勢を明らかにしているサウジアラビアです。

    サウジアラビアでは、在米サウジアラビア大使を30年もの間務め、ブッシュファミリーとも親しいとされる、バンダル・ビン・スルタン情報庁長官が、アメリカとのパイプ役を果たしているとされます。そして、ヨルダンに常駐し、シリア反政府軍に軍事支援を行っているのが、このバンダル・ビン・スルタンの異母弟にあたる、ハーリド・ビン・スルタン国防次官です。

    サウジアラビアの豊富な資金、そしてアメリカが世界中に張り巡らせた情報網がこのヨルダンに集積され、「自由シリア軍」をバックアップしているといわれます。

    国枝元大使によると、8月10日頃から、このヨルダンを拠点とした「自由シリア軍」へのバックアップ体制が整ったのだといいます。

    ラタキアでのイスラエル空軍の爆撃と、ヨルダンを拠点とした「自由シリア軍」へのバックアップは、セットで考えることができると、国枝元大使は解説します。つまり、シリア国内での地上戦は「自由シリア軍」が担い、欧米軍は地中海からの空爆だけを行って、50ヶ所程度の政府軍の軍事拠点を破壊し、地上戦を戦う反体制派を援護する作戦計画が想定されている、ということです。この作戦計画のもとでは、シリア政府軍が化学兵器を仮に保有し、使用する可能性があったとしても、欧米諸国の将兵が被害を受けることはありません。

    8月21日に発生したとされる「化学兵器使用の事件」は、このような前段があった上で起こった事件あることを理解する必要があると、国枝元大使は言います。即ち、空爆と地上軍の派遣という、アサド政権を打倒するための準備がちょうど整ったところで、「タイミングよく」起きた事件だったというわけです。


    ◆理のない米国に「忠誠」を誓う日本◆

    ここで目を転じて、日本は、シリア情勢に関してどのような立場を取っているのでしょうか。

    9月5日、G20が行われていたロシアのサンクトペテルブルクで、急転直下、日米首脳会談が行われました。

    これは意外な展開でした。安倍総理は、オバマ大統領から冷遇されており、2月18日に行われた首脳会談はわずか1時間ほどのコールドランチ、6月18日のG8でも、日米首脳会談を断られていました。

    ※安倍首相、オバマ大統領にG8での首脳会談をキャンセルされる(6月17日、台湾・中広網 【URL】http://bit.ly/1bMGc6p

    今回のG20でも、安倍総理とオバマ大統領は9月3日に30分の電話会談を行っており、当初はG20での会談は見送られる予定でした。しかし、アメリカ側の要請により、一転して会談が実現。

    これは、米下院での決議を前に、オバマ大統領が海外からの支持を一国でも多く取りつけようと躍起になっているためであり、同時に、前述してきたように、アサド政権の仕業という確たる証拠がないにもかかわらず、米国の武力介入をいち早く支持した安倍総理の「忠誠」ぶりへの返礼の意味もあったでしょう。

    この会談で安倍総理は、「シリア情勢の悪化の責任は、人道状況の悪化を顧みないアサド政権にあるのは明らかである」などと断定したうえで、「米国こそ、非人道的行為を食い止める責任を果たしており、心から敬意を表する。国際社会が一致しているということについての明確なメッセージを発することが重要である」と手放しで米国を礼賛し、米国に追随する姿勢を過剰なまでに強調しました。

    しかし、この日米首脳会談で話し合われたことは、シリア情勢だけではありませんでした。外務省のホームページには、次のように記載されています。

    「安倍総理より、地域・国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に取り組む決意を述べ、今後、NSCの設置、防衛大綱の見直し、情報の保全、集団的自衛権の行使に関する検討に取り組むことを説明した」


    ※外務省:日米首脳会談(概要)【URL】http://bit.ly/1aeT72c

    NSCの設置、防衛大綱の見直し、情報の保全、集団的自衛権の行使容認。この四点は、日本を、米国につき従って、米国のための戦争を遂行する国にする、という一点に集約されています。そして、米国の都合で行われる戦争には、目前の、シリアへの武力介入のようなケーズも当然含まれます。

    安倍総理の悲願であるとされる、日本版NSC(国家安全保障会議)の設置は、有事の際に首相官邸に権限を集約し、総理、官房長官、外務大臣、防衛大臣により、外交・安全保障上の政策をスピーディーに決定することが目的であるとされます。そして、このNSCをはじめとする国家の中枢に関わる情報は、秘密保全法により「特別秘密」に指定され、ほんのひと握りの人間しかアクセスできないようになります。

    仮に米国から「特別秘密」が指定されたら、ひと握りの人間を除き、それが適正であるかどうか、なぜ「特別秘密」に指定される必要があるのか、チェックすることができません。これが、国家の「ロボトミー化」を意味するということは、「IWJウィークリー」7号の「ニュースのトリセツ」で指摘した通りです。

    ※2013/06/17 【IWJウィークリー第7号】自由を求めて「米国へ亡命」する時代から「米国から亡命」する時代へ~迫りくるサイバー時代のファシズムhttp://iwj.co.jp/wj/open/archives/85380

    政府は、年末には防衛大綱を見直す方針を固めています。その防衛大綱に、敵基地への先制攻撃と、集団的自衛権の行使容認が含まれると見られます。

    解釈改憲による集団的自衛権の行使容認を検討する安倍総理の私的諮問機関「安全保障の法的基板の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の北岡伸一座長代理は、9月5日、年内にもまとめる報告書で、集団的自衛権の行使容認に加え、国連決議に基づく多国籍軍などへの自衛隊の活動を広げられるよう、新たな憲法解釈を提言する方針を明らかにしました。

    ※安保法制懇:北岡座長代理 多国籍軍参加を提言へ(毎日新聞、9月5日【URL】http://bit.ly/14sPTZV

    ◆中国・韓国との首脳会談はいまだ実現せず◆

    さらに安倍総理は、この日の日米首脳会談で、TPP交渉の年内妥結にも合意しました。日本がTPP交渉に参加したのは、8月30日に閉幕した、ブルネイでの第19回交渉会合からです。遅れて参加したために、ただでさえ日本は不利な立場であるにもかかわらず、本来ならば引き延ばしをはかるべき交渉の期間を、自ら捨て去ってしまったのです。

    ※TPP交渉「年内妥結」合意 残り3ヶ月 厳しさ増す (東京新聞、9月8日【URL】http://bit.ly/1dReQBh

    急ぎつけ加えておくと、安倍政権の国際的孤立が、この日米首脳会談で解かれたわけではありません。依然として、中国・韓国との関係は冷えきったままです。

    日本側からの「ラブコール」にもかかわらず、G20でも、中国、韓国との首脳会談は実現しませんでした。韓国は、7月12日の時点で、G20での首脳会談の見送りを早々に決定。中国も、8月27日、「日中間に対話の基礎がない」として、G20での首脳会談の見送りを発表していました。G20で、習近平国家主席と短い会話を交わした際、安倍総理が「日中関係が改善されることを心から望んでいる」と述べたにもかかわらず、です。

    ※9月の日韓首脳会談見送り ロシアでのG20会合時(共同通信、7月13日【URL】http://bit.ly/16ya6bv

    ※中国外務次官、9月G20での日中首脳会談に否定的「対話の基礎なし」(8月27日、msn産経【URL】http://on-msn.com/1ffxFdO

    ※安倍首相が中国主席とG20で対面…中国は問題の適切な処理を要請(9月6日、サーチナ【URL】http://bit.ly/1e5sF06

    ◆嘘のアスファルトでぬかるみのような真実が舗装される◆

    安倍総理は、G20の場で、オバマ大統領に対し、NSCの創設、秘密保全法の制定、集団的自衛権の行使容認を約束したその足で、ブエノスアイレスへと向かい、IOC総会に出席しました。そして、この稿の冒頭に戻りますが、2020年夏季五輪の開催地に東京が決定したわけです。

    マドリードとの間で最後の最後までデッドヒートを繰り広げたともいわれますが、この五輪招致合戦に勝利するために、支持の取りつけの見返りとして、どこの国に対して、どんな外交的取り引きをしてきたのか、気にならないといえば嘘になるでしょう。

    化学兵器が使用されたシリアのような土地に自衛隊を送り出すことになるかもしれない集団的自衛権の行使容認を米国の大統領と約束し、自衛でもない「大義なき戦争」へと踏み出すオバマ大統領の姿勢を礼賛し、盲従を表明してしまう。決してコントロールなどされていない福島第一原発を「コントロールできている」などと大嘘をついて、汚染や健康被害の実態をなかったことにしてしまう。

    我々が今、目のあたりにしているのは、嘘のアスファルトで、ぬかるみのような真実が舗装されようとしている光景です。安倍総理は、外遊を「トップセールス」と位置づけているそうですが、国民の安全と安心を売り渡して何を得たのか。五輪の開催権と一時の人気取り、支持率の維持だとしたら、それはあまりにつりあわない取り引きだったと言わざるをえません。


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